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LINGUA始動

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2016年4月 言語教育の中核センター Lingua(リングア)が設立されました

東京外大は今年2016年4月にワールド?ランゲージ?センター、通称Lingua(リングア)と呼ばれるセンターを設置しました。Linguaは次の3つの活動を行います。

  1. CEFR-J推進室の活動を通じ、言語教育の達成度の可視化をはかり、本学の地域言語教育や教養外国語教育を支援します。
  2. 英語学習支援センター(略称「ELC」)の活動を通じ、総合的な英語学習を支援します。
  3. 世界教養科目「世界のことば」などを通じ、多くの言語の学習機会を提供します。

活動の拠点は、研究講義棟4階のワールド?ランゲージ?センターと3階の英語学習支援センター、さらに、教育活動の場として研究講義棟4階に2つのラウンジがもうけられました。吹き抜けをはさんで西側がEnglish Lounge、東側がMultilingual Loungeです。今回のTUFS Todayでは、
1) 投野由紀夫センター長からのメッセージ
2) すでに活動のはじまっているEnglish Loungeのご紹介
3) 本センタ―の活動の一環で今年度から開講されたイディッシュ語、ハワイ語、トルクメン語の授業についてご紹介します。

1. 投野由紀夫センター長からメッセージ

本学では外国語教育の教授と評価の枠組みを、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)を日本の外国語教育にアレンジした CEFR-Jをベースに、本学で教育するすべての地域言語で統一的に行うという壮大な計画を実行するために、このLinguaを発足させました。

CEFR-Jによる全言語共通の CAN-DO ベースの語彙?文法?テキストなどの言語材料の整備、独自教材の開発、CAN-DOによる自己評価と独自パフォーマンス?テストによる CEFRレベル判定などを実現し、言語学習の達成度を可視化する試みを、長期的な計画で実施します。
本リングアでは、英語やその他の言語の学習機会を提供する活動とともに、CEFR-J推進室を中心に、上記の作業を進めてまいります。是非、ご期待ください。

2. English Lounge

在学生の皆さんは、4月に研究講義棟4階に開室したEnglish Loungeにお気づきのことと思います。English Loungeは、いつでも自由に英語に浸ることができる場として開室されました。だれでも気軽に立ち寄って英語での会話を楽しむことができます。留学生や英語教育学を専攻する大学院生のアシスタントが毎日交替で常駐していますので、英会話だけでなく、ちょっとした英語に関する質問がある方や英語学習について相談したい方も、ぜひいらしてみてください。

曜日別ラウンジスケジュール

  • Chat: 特に決まった活動はありません。気軽に来て話しましょう。
  • Chat for beginners: 英語で話すことが苦手、話せない、と思っている学生の方は一度来てみましょう。
  • ライティング: ライティングについての質問に答えます。自分で書いた短いエッセイの持ち込みも可能です。
  • 英語学習相談: 英語学習について悩んでいて意見を聞きたい、あるいは英語に関する質問がある学生の方は、英語教育学を専攻する大学院生と一緒に考えてみましょう。また、英語での会話も試みてみましょう。
  • イングリッシュ?アドバイザーや留学生アシスタントによるセミナー:不定期に開催するスピーキング活動を中心としたセミナーです。
  • 英語力不足の学生を対象とした補習(5月)や、TOEIC-IP等のレベル別受験対策講習(夏学期?冬学期中)も提供しています。

また、ラウンジでは毎日、ELCのスピーキング?セッション (各セッション5名まで) の一部を行っています。参加を希望される場合はELC (研究講義棟3階304室) で予約のうえ、ご利用ください(tufs-elc[at]tufs.ac.jp [at]を@にかえて送信してください)。

3. 今年度新規開講:イディッシュ語、ハワイ語、トルクメン語

現在東京外大では、80近い言語を学ぶことできます。これは世界最大級であり、日本では本学でしか学べない言語も多数あります。いずれの授業でも、言葉だけでなく、その言語を使用する人間集団の文化についても学ぶように授業を進めています。

たとえば、この春学期には、専攻言語として教育される27の地域言語以外に、次の言語が開講されています。

ノルウェー語、ラテン語、オランダ語、イディッシュ語、バスク語(エチェパレ?インスティテュート(スペイン領バスク自治州)寄付授業)、カタルーニャ語(ラモン?リュイ院寄付授業)、ハンガリー語、ルーマニア語(ルーマニア文化院寄付授業)、ギリシャ語、セルビア?クロアチア語、リトアニア語、コリマ?ユカギール語、アイヌ語、ツングース諸語、上海語、広東語、チベット語、サンスクリット語、タミル語、マラヤーラム語、マラーティー、ヘブライ語、トルクメン語、日本手話、フィンランド語、ハワイ語、アムハラ語

これらのうち、本年度新たに開講したイディッシュ語ハワイ語トルクメン語について、担当教員にお話を伺いました。

イディッシュ語

鴨志田 聡子 先生

世界教養プログラム:世界のことばA

——まずはイディッシュ語について教えてください。どのような言語ですか。

イディッシュ語は、ニューヨーク、イスラエルを中心に使用されている東欧出身ユダヤ人のことばです。ドイツ語から派生したので文法や単語がドイツ語によく似ています。けれどもヘブライ語やスラブ語などの単語もたくさん含まれています。文字はヘブライ文字使います。文字を見るとヘブライ語のようで、音声を聞くとドイツ語のようで、ときどきポーランド語のような単語が聞こえてくる面白いことばです。

——本学で開講しているクラスはどのような学生さんが履修していますか。

履修者は28人います。ポーランド語、ドイツ語などイディッシュ語と近い関係にある言語を通じて興味を持ったという学生が多いです。ドイツからの留学生も2人います。他にも、イディッシュ語とは関係のない言語を専攻しているのに履修してくれた人たちもいます。
授業は週1回で今学期だけです。限られた短い時間ですが、せっかくの機会なので、できるだけ学生にイディッシュ語の文化に触れてもらいたいと思って試行錯誤しています。

——授業の内容は?

授業では実際に、イスラエルに住んでいるイディッシュ語の話者とスカイプで会話したり、イディッシュ語の動画をみたりしています。イスラエルの話者はボランティアで2週間に1回15分間、会話の相手をしてくれたり、詩の朗読をしてくれます。
また、イディッシュ語について学生に調べて発表してもらっています。イディッシュ語で発表用のスライドを作った人がたくさんいます。

学生の人数は語学の授業としては多く、前提知識や興味は様々です。学生の皆様はとても優秀で真面目に授業を受けてくれています。これを機会にいろいろと興味を持ってもらって、イディッシュ語だけではなく言語と人の繋がりについて考えてもらえればと思っています。外大でイディッシュ語を学んだ経験が、みんなの今後の人生に何か役立てばと願っています。

イスラエルに住むイディッシュ語話者とSkypeで会話する学生たち

——学生さんや社会的な反響はありますか?

ユダヤ人以外の人たちがイディッシュ語を学ぶことは、イディッシュ語話者やその子孫にとっては非常にインパクトがあるようです。実は11月にカナダでイディッシュ語についてのシンポジウムがありますが、私はそこで東京外大でのイディッシュ語のクラスについて発表することになりました。

イディッシュ語は「死にゆく言語」と言われています。ホロコーストで多くの話者が殺されましたし、ごく一部の超正統派ユダヤ人(ユダヤ教をとても厳格に守る人たち)を除いては、イディッシュ語が親から子どもに伝えられなかったからです。
次世代に伝えられなかったという話は、沖縄やアイヌのことばにちょっと似ています。
イスラエルならヘブライ語、アメリカなら英語???というように、住んでいるところの言語をちゃんと喋れるようになった方が子どもたちの将来のためと、親たちが考えたようです。
私はイスラエルで2006?2008年に調査をして、イスラエルのイディッシュ語の状況について博士論文を書きました。その時、こんな新聞記事を見つけました。イディッシュ語話者の父を持つ人のインタビューです。

(1)彼は決して、自分がイディッシュ語をよく知っていることについて決して明かさず、私は決してそれについて尋ねることもなく、彼がイディッシュ語を知っているということについて知りませんでした。それは強いタブーでした。(ソース:Hirton, 12 July 2006, Haaretz.com)

(2)私は、ホロコースト生存者の両親の下、アメリカで育ちました。母親は、東欧出身でしたがドイツ語を話し、イディッシュ語を知らないことを誇りにしていました。 父親はというと、イディッシュ語が最も得意な言語でした。私が20歳を少し過ぎた頃、自分でイディッシュ語を学び始めると、やっと父にイディッシュ語を教えてもらうことができました。それは私たちにとって、非常に大きな喜びでした。(ソース:Hirton, 19 July 2006, Haaretz.com)

そういった言語が東京外大で学ばれていること、そしてそこに30名近くの学生が集まっていることは、非常に意味のあることだと思っています。

——TUFSオープンアカデミー(公開講座)のサマーコースで一般の方向けにもイディッシュ語の講座が開講されると聞きました。

はい。公開講座ではイディッシュ語がどんな言語か、それをどんな人が話しているのかについて学びます。ヘブライ文字の読み書きの練習をする予定です。3日間で初歩的な会話を学び、講座が終わるころにはイディッシュ語で挨拶ができるようになると思います。

——ありがとうございました。

参考

ハワイ語

世界教養プログラム:世界のことばA

古川 敏明 先生

——まずはハワイ語について教えてください。どのような言語ですか。

ハワイ語といったら「アロハ!」ということばが思いつくかもしれません。ハワイ語はハワイ先住民の言語です。アメリカ、ハワイ州では英語とともに、1978年から州の公用語に定められています。ハワイ語はいわゆる危機言語で、年配の母語話者は100人を割り込んでいると考えられます。しかし、1980年代から子どもを対象としたイマージョン(没入)教育が行われ、現在では若い世代の新しい母語話者が数千人存在します。言語学的な分類としては、オーストロネシア語族ポリネシア諸語に属し、ポリネシア地域で話されるタヒチ語、サモア語、トンガ語、マオリ語などと近い関係にあり、東南アジア地域で話されるマレー語やインドネシア語など、さらには台湾の先住民の言語と遠い親戚関係にあります。

——クラスにはどのような学生さんが履修していますか。

ハワイを研究対象とする大学院生が履修している一方、学部生が多く履修しています。学部生の皆さんは、アフリカ、オセアニア、アジア、欧米、ロシア、そして日本など実にさまざまな言語や地域を専攻しているようです。この中には、東京外大のフラ?タヒチアンダンス部の学生さんもいます。

——授業の内容は?

ハワイ語の世界を知ることを目的とした授業なので、基礎的な文法や語彙を扱うことに加えて、ハワイ語を取り巻く歴史も学んでもらっています。移民、戦争、観光の歴史を知り、現代のハワイ社会も知るということが必要だと考えているからです。ハワイは多言語?多民族な社会であり、(1)先住民語としてのハワイ語以外にも、(2)英語、(3)州の人口の半数によって話されていると考えられているハワイ?クレオール、(4)日本語のような移民の子孫たちの継承語などが存在します。授業では毎回、関連ニュースを紹介したり、音楽、食、コメディといったトピックを扱ったりしています。

——学生さんや社会的な反響はありますか?

受講者の中には外大のフラ?タヒチアンダンス部の部員の皆さんがいて、ハワイ語の詩の理解に役立つことを期待して、授業を履修してくれています。日本にはフラを踊る人たちやハワイが好きな人たちが数多くいて、実は大学以外の場では、ハワイ語の講座が単発的に開講されています。しかし、これまで日本の大学では、言語学の授業の一部でハワイ語を取り上げることはあったようですが、ハワイ語に特化した(語学の)授業というのは存在しなかったのではないかと思います。また、ハワイ州にある大学やコミュニティカレッジでは、先住民の言語文化に関する科目が提供されていますが、ハワイ州の外ではまれです。ですので、東京外大で単位を付与する正式な科目としてハワイ語の授業が行われることになった社会的な意義は小さくないと思います。

——ありがとうございました。

参考

トルクメン語

世界教養プログラム:世界のことばA

奥 真裕 先生

——まずはトルクメン語について教えてください。どのような言語ですか。

トルクメン語は、トルクメニスタンをはじめ、イラン、アフガニスタンなどで話されている言語で、トルコ語、ウズベク語、カザフ語などとともに、チュルク語に分類される言語です。トルクメニスタンは旧ソ連であったため、ロシア語とのバイリンガルが多く、借用語も多いことばです。また、ペルシャ語やアラビア語からの借用も多くあります。基本語順は日本語と似ていて、比較的日本人にとって学びやすい言語だと思います。

——どのような学生さんが履修していますか。

約20名の学生さんが受講しています。トルコ語や中央アジア地域を専攻している学生さんが多いです。その他、韓国人の留学生なども1人います。トルクメニスタン人の留学生が1名授業を聴講して、発音練習などの手伝いをしてくれています。

——授業の内容は?

授業は前半と後半に分けて、発音や文法のほかにトルクメニスタンの文化や歴史についても学習できるよう、毎回、授業の前半では、トルクメン語の発音?初級文法を学び、授業の後半では、会話や購読のテキストを用いてトルクメン語を運用する練習したり、トルクメニスタンに関する映像資料等を用いてトルクメニスタンについての知識を深められるように、工夫しています。

——先日、トルクメン語授業の開講を記念して、駐日トルクメニスタン大使による講演会が行われましたが、やはり本学での開講はかなりインパクトがあったのでしょうか。

昨年10月、立石学長らがトルクメニスタンを訪問し、国際人文開発大学と国際学術交流協定の調印をおこないました。同調印式は、安倍総理の中央アジア5カ国訪問の一部にも位置付けられ、安倍総理やベルディムハメドフ大統領らが見守る中行われ、注目度としてはかなり高かったようです。その際に、本学におけるトルクメン語やトルクメニスタン文化に関する教育?研究の支援が約束され、今回の開講が実現しました。

本学でのトルクメン語授業の開講の反響は、特にトルクメニスタンで大きいです。トルクメニスタンにとってどちらかというと異国である遥か遠い日本でトルクメン語を学習する学生がいるいうのはかなりインパクトが強いようです。6月中旬に現地の新聞にも掲載されると聞いています。

——ありがとうございました。

参考

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