平成26年9月卒業式?学位記授与式

2014.10.03

平成26年9月外国語学部卒業式?学位記授与式、大学院地域文化研究科及び総合国際学研究科学位記授与式が平成26年9月25日に本学の留学生日本語教育センター「さくらホール」において行われました。

 

学長式辞

 

今日、社会人として広く世界に向けて巣立っていく卒業生の皆さん、また、さらなる学究の意欲に燃え、進学の道に入られる皆さん、そして、大学院博士前期課程、後期課程のそれぞれで学位を取得された皆さん、皆さんの新しい門出を祝い、東京外国語大学長として、餞(はなむけ)の言葉を述べさせていただきます。

今日、外国語学部を卒業される皆さんのなかには、海外留学などのために留年されたかたもおられると思いますが、多くの方は、2010年4月に入学されています。その入学式で、亀山郁夫前学長が皆さんにお話ししたことを覚えていらっしゃるでしょうか。

亀山前学長は、東京外国語大学の基本精神は、「世界知の蓄積、地球社会との協働」(accumulation of world knowledge, interaction with the global society)であると言われ、この精神のもとに学ぶ皆さんは、4つのスキルを習得してほしいと訴えられました。第一は、コミュニケーション(Communication)能力で、自分の意思をしっかり他者に伝えるとともに他者の考えを聞き取る能力です。第二は、イマジネーション(Imagination)能力で、他者の存在をしっかりと見つめ、理解しようとする人間的な想像力です。第三は、エクスプロレーション(Exploration)能力で、世界のさまざまな地域をしっかりと理解するためのリサーチ力です。第四は、コオペレーション(Cooperation)能力で、世界のさまざまな矛盾を見すえ、世界と協働し、よりよい世界の実現のために努力する行動力です。

皆さんは、本学での大学生活を通じて、これら4つのスキルをどれほど習得されたでしょうか。それぞれの地域言語の修得と英語力の向上によって、第一のコミュニケーション能力を培ったと、またそれぞれの専門科目や演習を通じて第三のエクスプロレーション能力を培ったと、今日この場で皆さんが自負されるよう願ってやみません。

さらに、第二のイマジネーション能力つまり想像力と、第四のコオペレーション能力を、皆さんはどれほど磨き上げたでしょうか。

私は、この二つの能力は切っても切れない関係にあると思います。というのは、他者のおかれた困難な状況を理解し、その解決に資したいと思う「コオペレーション能力」は、他者に共感する「イマジネーション能力」があってはじめて力を発揮できるからです。私は、この二つを備える人間力のことを「思いやり」と呼びたいと思います。

皆さんが、勉学に加えて、学生生活やアルバイト、留学体験などを通じてこの「思いやり」の力も十分に身につけたと誇られることを願っています。

この「思いやり」の力を最大限に発揮されたのは、皆さんが入学した翌年の春、つまり2011年3月11日に東北地方を襲った巨大地震のときだったと思います。皆さんは、東北地方の人たちが苦しんでいた時、若者らしい「思いやり」の力を発揮されて、さまざまな募金活動や現地支援活動に立ち上がってくれました。そして今でも、東北復興のために自分たちのできるボランティア活動に打ち込み続けている方々がおられることを、私は誇りに思います。

さて、産業界からも教育界からも「グローバル人材養成」の必要が言われています。コミュニケーション能力、異文化理解力、主体性?積極性、チャレンジ精神が、この人材に備わるべき要素とされます。いま国際社会で活躍できる人材にとって、こうした要素が大切であることは言うまでもありません。

しかし、これはあまりに金太郎飴的な「グローバル人材」の定義ではないでしょうか。東京外国語大学は、1873年を建学の年とする長い国際人養成の伝統をもつ大学として、「多言語グローバル人材」の養成をおこなう、と私は、本年5月、「TUFSネットワーク中核大学」創世宣言において明言しました。

地球社会全体のグローバル化が進む中で、地域社会のローカルなものとの折り合いがますます大切になってきていますが、それが逆にさまざまな困難を、さらに軋轢や対立を生み出しているのが21世紀の時代です。

本学で、英語に加えて世界諸地域の言語、そして言語を基底とする地域文化を学んできた皆さんは、「多言語グローバル人材」であり、世界の諸地域で、グローバルとローカルの仲介者となる地域人材となるに足る言語力と地域理解力を身につけられていると思います。たとえ十分ではなくともその基礎はしっかりと身につけられたと確信します。

グローバル企業にとってのローカルなものへの対応の必要は、「グローカリゼーション」つまり「グローカル化」という造語を生み出しました。モスバーガーによる日本での照り焼きバーガー、マクドナルドによる韓国でのキムチバーガーという商品開発はあまりに有名な話です。

世界展開を図る企業活動にとって、世界諸地域のそれぞれのローカルな需要を汲み取り、現地の社会経済発展に資するという戦略は、ますます必要になっています。

かつて日本企業は、優れた製品をつくれば輸出できるという時代に海外展開をしましたが、それは欧米の市場がほとんどだったのです。いまアジアやアフリカの、いまなお多くの住民が貧しい暮らしを送る国や地域を市場としてとらえようとするとき、ローカルなものへの気配りは不可欠です。

具体例をあげましょう。ある洗濯機のメーカーは、日本では全自動洗濯機を販売しているのですが、アジア諸国への進出にあたっては二層式洗濯機の製造?販売に重点をおいています。二層式のほうが値段が安いだけでなく、故障しても修理しやすいからです。そして大事なのは、この企業が現地販売店の人たちに実際に修理技術の修得をさせていることです。

「グローバル化」は、ややもすると富裕層に目を向ける戦略に陥りがちです。しかしこの事例には、現地社会つまりローカルなものに配慮した、長期的「グローカル化」戦略がみられると言えましょう。

私は、「学長メッセージ」で、Think and Act Globally and Locally!、地球社会と地域社会に根ざして、考え行動しよう! という言葉を繰り返しています。

皆さんが、「多言語グローバル人材」として、地球社会(グローバル)とさまざまな地域社会(ローカル)で生じている諸課題に果敢に取り組んでいかれることを心から願っています。

最後に二つお願いがあります。一つは、本学のOB?OG組織である東京外語会の活動に加わっていただきたいということです。ご案内がお手元にいっているはずですが、東京外語会は、「東京外国語大学と連携し、外語大ブランドをともに高めていく」同窓会組織です。

もう一つは、社会人になられて多少ゆとりができたときで結構ですが、本学が今年からスタートした「建学150周年基金」を支援していただきたいということです。この案内もお手元に届いているはずです。どうか、2023年の東京外国語大学を想像してみてください。つまり1873年(明治6年)の建学の年から150年目となる、いまから10年後の本学の姿です。OB?OGの皆様からの篤い財政的支援と人的支援に支えられて、「真の多言語グローバル人材」を養成する、「人と知の循環を支えるネットワーク中核大学」となり、このグローバルキャンパスで日本人学生と世界各地からの留学生が、ともに学び合い、切磋琢磨していることでしょう。私たち教職員もがんばりますが、卒業される皆さんが母校を末永く支援してくださることを心より希望いたします。

以上、皆さんのご活躍を祈念して、学長の式辞とさせていただきます。

2014年9月25日  国立大学法人 東京外国語大学長 立石博高

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